そして私の對象として選ぶべき女は、何か日々の孤獨のために心の弱まるやうなこちらを引き立ててずんずん向うの氣持ちに引き摺り込んでくれるやうな、強い心の持主でなければならなかつた。
しかもそれは見事に失戀した女であり、自分を去つた男を詮め切れずに何處までも心で追つて、いつかその心の領域では相手の男をはるかに追ひ越してしまふほど氣概のある女でなければならなかつた。
「あるかなきかの心地するかげろふの日記といふべし」とみづから記するときのひそやかな溜息すら、一種の浪漫的反語めいてわれわれに感ぜられずにはゐられないほど、不幸になればなるほどますます心のたけ高くなる、「かげろふの日記」を書いたやうな女でなければそれはどうしてもならなかつた。