――そのしぐれの夜の對話はこの二人の中年の男女の心に沁み、互に相手を淡い氣もちでなつかしみあふが、それぎりで二人には再びゆつくりと語り合へる機會は來ずにしまふ。
ただ二度ほど同じ殿中で互をそれとなく認め合ふ折もないではなかつたが、共に折惡しくて僅かに口頭で歌をとりかはすだけで別れる。
が、その逢へさうで逢へずにしまつた刹那ほど、彼女は自分がそつくりそのまま物語のなかの女でもあるかのやうな氣もちを切實に味つたことはないのだ。
――そのしぐれの夜の對話はこの二人の中年の男女の心に沁み、互に相手を淡い氣もちでなつかしみあふが、それぎりで二人には再びゆつくりと語り合へる機會は來ずにしまふ。
ただ二度ほど同じ殿中で互をそれとなく認め合ふ折もないではなかつたが、共に折惡しくて僅かに口頭で歌をとりかはすだけで別れる。
が、その逢へさうで逢へずにしまつた刹那ほど、彼女は自分がそつくりそのまま物語のなかの女でもあるかのやうな氣もちを切實に味つたことはないのだ。