ただ二度ほど同じ殿中で互をそれとなく認め合ふ折もないではなかつたが、共に折惡しくて僅かに口頭で歌をとりかはすだけで別れる。
が、その逢へさうで逢へずにしまつた刹那ほど、彼女は自分がそつくりそのまま物語のなかの女でもあるかのやうな氣もちを切實に味つたことはないのだ。
さういふ氣もちにさせられただけで、そのやうな一瞬間の心と心との觸れ合ひを感じ得られただけで、既に物語そのもののこの世には有り得ないことを知つてゐる彼女は、いかにも切ないが、一方、その心の奧で一種の云ひ知れぬ滿足を感ずる。
ただ二度ほど同じ殿中で互をそれとなく認め合ふ折もないではなかつたが、共に折惡しくて僅かに口頭で歌をとりかはすだけで別れる。
が、その逢へさうで逢へずにしまつた刹那ほど、彼女は自分がそつくりそのまま物語のなかの女でもあるかのやうな氣もちを切實に味つたことはないのだ。
さういふ氣もちにさせられただけで、そのやうな一瞬間の心と心との觸れ合ひを感じ得られただけで、既に物語そのもののこの世には有り得ないことを知つてゐる彼女は、いかにも切ないが、一方、その心の奧で一種の云ひ知れぬ滿足を感ずる。