その後さらに、元禄の頃芭蕉が此地にやつて來て「更科紀行」などを書いた少し前に、その冠着山からもう一度現在の姨捨山に移動して來てゐるのださうである。
――しかし、いまのところ私はそれらの諸説にはこだはらずに、自分の前にある古歌をただそれだけのものとして單純に味ひたい。
――或はこの讀み人しらずの歌は、その更級の里にあつて近親を失つたものがそれを山に葬つた後、或夜その山に照る月をながめながら詠んだ哀傷の歌として味ふのが本筋かも知れないが、いまはその考へをさへ棄てて、私はそれをただわれわれの女主人公のやうな境遇の女がその里に佗び住みしながらふと詠みいでた述懷の歌としてのみ味ひたいのである。