さういふこちらの氣のせゐか、大和の山々は、どんなに小さい山々にも、その奧深いところに何か哀歌的なものを潛めてゐる。
奈良を去る前日、私は「大和雜記」といふ本を讀んでゐたら、奈良山の一部に人麻呂歌集などにも出てゐる黒髮山といふ山があり、そこから法華寺村の北方の歌姫といふ部落に出る舊道のある事を知つて、ちよつとその黒髮山とか、歌姫といふ美しい地名に心をそそられて、その山越えをしてみたくなつた。
其處でその翌朝、私は奈良坂の上までバスで行き、元明、元正兩天皇の御陵のあたりから大體の見當をつけて、山のなかへはひつて行つた。