そのとき私は芥川さんの手帖にその犬の名前だの値段だのをそばから書かせられた。
數年前、全集「別册」編纂のため、それらの手帖を整理してゐるうちにその箇處に出合ひ、その私自身の書いたものまでも寫して置くべきかどうかにかなり迷つたことがある。
そんな箇處の近くには、又、芥川さんが當時思ひつかれるそばから私に話して下さつたコントのやうなもの、――たとへば八百屋の小僧が西洋人の落して行つたパイプを拾つて煙草の代りに玉蜀黍の毛をそれにつめて吸つてゐると云つたやうな話の心覺えのやうなものまでが見つけられたのだつた。