クロオデルが「能」について書いたエッセイなとが、そんな僕には一番鑑賞の役に立つてゐる所以です。
一、クロオデルと云へば、その能に關するエッセイの一節に、「我々の眼前にて一瞬間に構成せらるる彫像のごとく、夫が、その妻の前をふり向かうともせずに通り過ぎんとする刹那、その愛する者の肩の上に置くその腕のなかの何といふ優美さ、そして我々の繪入新聞の中に見かけらるるごときかかる悲哀の俗な動作も、それが緩やかに注意ぶかく、行はれるとき、何とそれは深い意味をもつことだらう、」と書いてゐますが――この數行などのうちに、きはめて暗示的にではありますが、あらゆる日本の古典の樣式美といつたやうなものが要約せられてゐるやうに思ひます。
一、前にも述べましたやうに、いくら讀みたくとも「源氏物語」などは原文ではなかなか讀めさうもありませんので、只今のところ敬遠してゐる他はありませんが、能になりますと、ぼんやり見てゐればそれだけでも何か解つてくるものがある、それが何か僕には貴重なものに思へますので、ときどきこれからも機會ある毎に、丸岡君に連れていつて貰ふつもりです。