ボオドレエルが彼に與へたものはすべてプルウストは自分の物としてゐる。
(バルザックが「創造の錬金術」と名づけたものによつて)……私はペンを手にしたまま、讀んでゐるそのテキストからどうしても離れられなかつた。
ときどき章句の美しさや、反省の情熱的興味が私の注意をそらしはしたが、そしてまたハムラン街の彼の部屋(いつも鎧扉の閉まつてゐる)の中で、眞夜中、死の床にならうとしてゐるそのベッドの上に體を折り曲げて、作品を校正したり、書き直したりしてゐるプルウストの幻が目の前にちらついてならなかつたけれども。