O君はまだ來てゐられなかつたので、僕はしばらく大きな應接間で一人きり待たされてゐた。
――僕はそこでぼんやりと煙草を二三服したのち、何氣なく傍らの卓子の上に置いてあつた獨逸の新聞の束を手にとつて、ばらばらとめくつてゐると、それへ毎號繪入小説を連載してゐる作者の名前がどこかで見覺えのあるやうな氣がしてきたが、そのうちその小説の第一囘の冒頭にその作者のことが寫眞と共に小さく紹介してあるのを見ると、それはリルケがあの有名な手紙を書いて與へた往年の若き詩人――フランツ・クサヴェア・カプスなんだ。
あのカプスがいまはこんな繪入小説を書いてゐるのか、と僕はしばらく自分自身の眼を疑つた。