そんな方がかへつて、リルケにあんなに好い手紙を貰つた若い詩人の悲劇らしく奧床しいと考へてゐたが、そのカプスがいまはこんな仕事をしてゐるのか、と思ふと、僕はそれを拾ひ讀みして見ようなんていふ好奇心すら起らず、ただなんだか胸の痛くなるやうな氣がしたばかりだつた。
そのうちにO君が漸く來たので、それを見せるとO君もそれを知らずにゐて、一驚して讀んでゐたが、そんなカプスのことから僕達の話はいつかリルケの方に移つていつた。
僕なんぞよりもずつとよくリルケを讀んでゐるO君にいろいろな話を聞いてゐるうちに、自分のリルケの本といへば殆ど全部其處に置きつ放しにしてある山里の方が變になつかしくなつて、僕はなんだかかうやつて京都や奈良をぶらぶら歩きまはつてゐるのに一種の悔いに似た氣もちさへ感ぜられてきて仕方がなかつた……