どんなものを描くかはまだ一向見當がつかないが(しかしその小説の基調となるべき雰圍氣はいま言つたやうなものさ、――さういつたやうなものから一つの小説が次第に形をとりだすのを辛抱強く待つてゐるのが僕の小説作法だ。
これだけは君に白状してしまふ)その物語の舞臺は、誰に何と言はれようとも、いま僕の住んでゐるこのへんの山麓の小さな村、何度も何度もこれまで僕が自分の小説に使つたのと同じ村にするつもりだ。
けふ偶然に屆いたモオリアックの日記を手にとつて見てゐると、彼がその大部分の小説の舞臺に使つたマラガアル地方の風景のことだの、それに對する彼の偏愛だの、又、その地方の實際の風景は小説のそれとはだいぶ異つてゐることだのを率直に語つてゐる頁に出合つた。