一週間ばかり同じホテルで仕事をしてゐて、一度も顏をあはさず、はじめて御挨拶しました。
曇つた日で、二時頃から綺麗に枯れた芝生に面したヴェランダでビイルをのみながら四人で快談(もつとも僕はビイルが飮めないのでときどき話につかれると硝子窓の向うの松林の上を動くともなく動いてゐる雲をながめながら、ふいと自分の小説の女主人公のことを考へたりしてゐました)――ちよつと話が別になるが、僕は小説がいよいよ書き出せさうになると、さうなるまでは人に會ふのも臆劫なやうな氣のしてゐたのに、急に人に會つたり何かと用事をつくつて町なかへ出てゆくのが好きになる。
それがなんだか僕の小説に人生の空氣を入れてくれるやうな氣がされるのかも知れません。