――私の母の實家が隨分貧しかつたらしいことや、私の母の妹とか、弟とか云ふ人達が大抵寄席藝人だの茶屋奉公だのをしてゐたことや、私の父が昔は相當道樂者だつたらしいことなどを考へ合はせて見れば、そんな私の空想が全然根も葉もないものであるとは斷言できないだらう。
私はしかし藝者と云ふものを今でも殆ど知つてゐないと言つていい。
ただ少年の頃から鏡花などの小説を愛讀してゐるし、さういふ小説の女主人公などに一種の淡い愛着のやうなものさへ感じてゐるところから、或はそんなことが私をしてかかる夢を私の亡き母にまで托させてゐるのかも知れぬ。