けふは淺間登山道を僕は眞直に登つてきた。
――實は今朝、まだ霧のふかいうちに、僕は半分睡氣ざましに、この山道の入口のところまで歩きに來たら、丁度そのとき霧のなかに大きな牝牛を一匹放したまま跡に歩かせながら、默々と山に登つて行つた、三人のリュックを背負つた山人夫達を見かけたのだけれど、その後ろ姿が僕には何とも云へずなつかしく見えたのだ。
――それよりすこし前のこと、僕が霧の中にちらちらと花のほの見えてゐる馬鈴薯畑を前にした、一面にクロオヴァの茂つた、やや斜へになつた小さな空地のところへさしかかると、いつもはそこに二匹の山羊がつながれてゐるところに、その姿は見えず、その代りに思ひがけず大きな牝牛がひとりで草を食べてゐた。