水のほとり
堀辰雄
私はいま、こんな胸の病氣で、部屋の中に閉ぢ籠つたきり、殆ど外出することなんかないと言つていい位であるが、――いまから數週間前、まだ私の病氣もこんなに重くならなかつた頃のことだ、晝間のうちはそれでも我慢して寢床の中にもぐり込んでゐたが、夕方になるとなんだか耐らない氣持になつて、私は無理に起き上り、出來るだけ氣輕な散歩者のやうな服裝をして、何のあてもなしに街の中へ出かけて行く習慣があつたものだ。
水のほとり
堀辰雄
私はいま、こんな胸の病氣で、部屋の中に閉ぢ籠つたきり、殆ど外出することなんかないと言つていい位であるが、――いまから數週間前、まだ私の病氣もこんなに重くならなかつた頃のことだ、晝間のうちはそれでも我慢して寢床の中にもぐり込んでゐたが、夕方になるとなんだか耐らない氣持になつて、私は無理に起き上り、出來るだけ氣輕な散歩者のやうな服裝をして、何のあてもなしに街の中へ出かけて行く習慣があつたものだ。