その間もたえず私の眼は、笹縁のやうに白い泡で縁どられた蒸氣船をぼんやり追つてゐるのだが、そのうちに私は再び先刻のやうなドキツとする氣持を經驗する。
すると今度は、その瞬間まで私を取卷いてゐた昨日の風景の幻たちがたちまち消滅する番だ。
そして私は再び自分自身を、いつのまにか悲しげな勞働者たちで一杯になりだしてゐる、夕方の橋の上に見出しながら、ただそれだけが今しがたの幻の中からそつくりそのまま殘つてゐるやうな古蒸氣船のうしろ姿を、あたかもそれがその幻のうしろ姿であるかのやうに、とりとめのない氣持で見送つてゐるのである。