芥川さんもさういふ萩原さんと同じ位に、自分の内側に絶えずはげしい不安を抱いてゐた人ですが、しかし芥川さんはあなたの平靜さを十分に理解しそれを愛してゐたやうであります。
いつか芥川さんが、「室生君は幸福だ」と言つたとき、あなたはその言葉に芥川さんの輕蔑しか感じなかつたやうですが、芥川さんはさういふ意味で言つたのではなく、自分が神から與へられたものだけではどうしても滿足できずに苦しんでゐるとき、あなたが神から與へられたものだけで滿足してゐる、いや諦め得てゐることを、痛切に羨望したのであらうと私は信じます。
何故なら芥川さんの求めてやまなかつた平靜さは、あなたの生れながら少しも害はずに持つてゐたものでありますから、さういふあなたにとつては人生といふものが、芥川さんのやうに苦しむものではなく、ただ嘆くべきものであるのは、きはめて自然なことであります。