「自分が希望するのは、自分の小説のおしまひの方で、この小説の始まりのところでは全然別箇の世界に住んでゐる、さまざまの人物の間のごく小さな事件が、時間の經過した結果として、あのヴェルサイユ宮殿の緑青のついた鉛のもつてゐるやうな美しさを所有するやうになることだ。
――これは例へば、第一卷の「スワン家の方」あたりではまだ全然別箇の世界に屬するものとして作者から示されてゐるスワン孃とサン・ルウとが、最後の卷になつて(それもごく自然な順序をたどりながら)遂に結婚するに至ることなどを暗示してゐるのだらうが、まあ何といふ遠大な計畫をたてたことか!
僕等なんかだつたらたとへさういふ構想を思ひついたにしろ、とてもそれに取りかかつてその十分の一だけでも書き上げる根氣すらなささうだ。