しかし私がうつとりしたのはアスパラガスの前だつたのだ、――それはすつかり群青色と薔薇色とに濡れてゐて、その穗先は葵色と空色とにうつすら染まりながら、まだ畑の土のこびりついてゐるその先端に行くにしたがつて漸々に、天上の虹のやうに暈かされてしまつてゐた。
さういふこの世ならぬ色合のせゐか、私にはそのアスパラガスが、何んだか或る微妙な生物が面白半分にそんな野菜に變身してゐるやうな氣がし、そしてその變裝(食べようと思へば食べられる、硬い肉の)ごしにまるであの曙の生れようとしてゐるやうな色合、あの虹の下描きのやうな色合、青味を帶びた夕暮れの消えんとしてゐるやうな色合となつて、その風變りなエッセンスが――それを晩飯に食べた晩は、夜中ずつと、シェクスピアの夢幻劇みたいな詩的でばかばかしい笑劇でも演ぜられてゐるかのやうに、私の尿瓶を香水瓶に變へてしまふところの、それほど風變りなエッセンスが、そのうちに認められるやうに私には思はれた。
皆さんに出來るだけお解り易いやうにと思つて大變意譯をしましたので、原文をひどく傷つけやしなかつたかと恐れてゐますが、――こんなお粗末な飜譯で見ましても、ともかくも、このセンテンスが非常に長いといふことだけはお解りになるでせう。