やっと春の立ち返った或日、そんな事を不意に思い出したように年とった女房の一人が、私の前で話し出した。
そう、そう言えば、そんな御方の事も聞いていたっけ……と私は以前殿にそういう女の御方もあられた事など、もう殆ど忘れかけようとしていたのを、何ということもなしに思い出させられた。
――なんでも故陽成院の御後だとか云われる、その宰相がお亡くなりになって、跡にたった一人の御女ばかりがお残されになった時、そう云う事をお聞きになるとそのままにはお聞き過ごしになれない例の御性分から、殿はその御方を何くれとなくお世話なすっていらしったようだったが(一度などは私のところからもあるたけの単衣をその御方の許へお取り寄せになった事もあった――)、そのうちその不為合せな御方は、御自分の本意からでもなく、ときおり殿をお通わせになさっていられるらしい御様子だった。