――しかし、その時雨の夜のように、何ぶん暗かったのでその女の様子なんぞよく見られなかったせいもあるかも知れないが、その女といかにもさりげなく話を交していただけで、何かこう物語めいた気分の中に引き摩られて行くような、胸のしめつけられる程の好い心もちのした事などはこれまでついぞ出逢ったことがなかった。
何かと云えばいま一人の女房を立てて、自分はいかにも控え目にしていた、そんな内端な女のそういう云い知れぬ魅力というものは何処から来るのだろうかと、男は自問自答した。
もう一度で好いから、あの女と二人ぎりでしめやかな物語がして見たい。