その新聞の記事で見ると、この一箇年殆ど支那でばかりお暮らしになって、作品もあまり発表せられなくなっていられた森さんは、古い北京の或物静かなホテルで、宿痾のために数週間病床に就かれたまま、何者かの来るのを死の直前まで待たれるようにしながら、空しく最後の息を引きとって行かれたとの事だった。
一年前、何者かから逃れるように日本を去られて、支那へ赴かれてからも、二三度森さんは私のところにもお便りを下すった。
支那の外のところはあまりお好きでないらしかったが、都市全体が「古い森林のような」感じのする北京だけはよほどお気に入られたと見え、自分はこういうところで孤独な晩年を過ごしながら誰にも知られずに死んでゆきたいなどと御常談のようにお書きになって寄こされたこともあったが、まさか今が今こんな事になろうとは私には考えられなかった。