その日記の一番終りに記されてある或秋の日の小さな出来事があってから、丁度一箇年立って、やはり同じ山の家で、母がその日のことを何を思い立たれてか急にお書き出しになっていらっしった折も折、再度の狭心症の発作に襲われてその儘お倒れになった。
此の手帳はその意識を失われた母の傍らに、書きかけのまま開かれてあったのを爺やが見つけたものである。
母の危篤の知らせに驚いて東京から駈けつけた私は、母の死後、爺やから渡された手帳が母の最近の日記らしいのをすぐ認めたが、そのときは何かすぐそれを読んで見ようという気にはなれなかった。