毎晩、彼の勤めている建築事務所から真直に荻窪の下宿へ帰らずに、何時間もこう云う銀座の人込みの中で何と云う事もなしに過していたのが、今までは兎も角も一つの目的を持っていたのに、その目的がもう永久に彼から失われてしまったとでも云うかのようだった。
今いる町のなかは、三月なかばの、冷え冷えと曇り立った暮方だった。
「なんだが菜穂子さんはあんまり為合せそうにも見えなかったな」と明は考え続けながら、有楽町駅の方へ足を向け出した。
毎晩、彼の勤めている建築事務所から真直に荻窪の下宿へ帰らずに、何時間もこう云う銀座の人込みの中で何と云う事もなしに過していたのが、今までは兎も角も一つの目的を持っていたのに、その目的がもう永久に彼から失われてしまったとでも云うかのようだった。
今いる町のなかは、三月なかばの、冷え冷えと曇り立った暮方だった。
「なんだが菜穂子さんはあんまり為合せそうにも見えなかったな」と明は考え続けながら、有楽町駅の方へ足を向け出した。