あの白い毛の外套に身を包んで空を見ながら歩き過ぎたその人も、――殊にその空を見入っていたようなあのときの眼ざしが、いまだにそれを思い浮べただけでもそれから彼が目を外らせずにはいられなくなる位、何か痛々しい感じで、はっきりと思い出されるのだった。
――昔から菜穂子は何か気に入らない事でもあると、誰の前でも構わずにあんな空虚な眼ざしをしだす習癖のあった事を、彼は或日ふと何かの事から思い出した。
「そうだ、こないだあの人がなんだが不為合せなような気がひょいとしたのは、事によるとあのときのあの人の眼つきのせいだったのかも知れない。