都築明はそんな事を考え出しながら、暫く製図の手を休めて、事務所の窓から町の屋根だの、その彼方にあるうす曇った空だのを、ぼんやりと眺めていた。
そんなとき不意に自分の楽しかった少年時代の事なんぞがよみ返って来たりすると、明はもう為事に身を入れず、どうにもしようがないように、そう云う追憶に自分を任せ切っていた。
その赫かしい少年の日々は、七つのとき両親を失くした明を引きとって育てて呉れた独身者の叔母の小さな別荘のあった信州のO村と、其処で過した数回の夏休みと、その村の隣人であった三村家の人々、――殊に彼と同じ年の菜穂子とがその中心になっていた。