それから二三日してから、O村へのおりからの夕立を冒しての彼の訪れ、養蚕をしている村への菜穂子や明を交じえての雨後の散歩、村はずれでの愉しいほど期待に充ちた分かれ――、それだけの出会が、既に人生に疲弊したようなこの孤独な作家を急に若返らせでもさせたような、異様な亢奮を与えずにはおかなかったように見えた。
翌年の夏もまた、隣村のホテルに保養に来ていたこの孤独な作家は不意にO村へも訪ねて来たりした。
その頃から、三村夫人が彼女のまわりに拡げ出していた一種の悲劇的な雰囲気は、何か理由がわからないなりにも明の好奇心を惹いて、それを夫人の方へばかり向けさせていた間、彼はそれと同じ影響が菜穂子から今までの快活な少女を急に抜け出させてしまった事には少しも気がつかなかった。