その頃から、三村夫人が彼女のまわりに拡げ出していた一種の悲劇的な雰囲気は、何か理由がわからないなりにも明の好奇心を惹いて、それを夫人の方へばかり向けさせていた間、彼はそれと同じ影響が菜穂子から今までの快活な少女を急に抜け出させてしまった事には少しも気がつかなかった。
そして明が漸っとそう云う菜穂子の変化に気づいたときは、彼女は既に彼からは殆ど手の届かないようなところに行ってしまっていた。
この勝気な少女は、その間じゅう、一人で誰にも打ち明けられぬ苦しみを苦しみ抜いて、その挙句もう元通りの少女ではなくなっていたのだった。