今でこそおようは自分の事はすっかり詮め切って、娘のためにすべてを犠牲にして生きているようだけれど、数年前明がまだ少年で此の村へ夏休みを送りに来ていた時分、そのおようがその年の春から彼女の家に勉強に来て冬になってもまだ帰ろうとしなかった或法科の学生と或噂が立ち、それが別荘の人達の話題にまで上った事のあるのを明はふと思い出したりして、そう云う迷いの一ときもおようにはあったと云う事が一層彼のうちのおようの絵姿を完全にさせるように思えたりした。
早苗は、彼女の傍で明が空けたような眼つきをしてそんな事なんぞを考え出している間、手近い草を手ぐりよせては、自分の足首を撫でたりしていた。
二人はそうやって二三時間逢った後、夕方、別々に村へ帰って行くのが常だった。