午後、その山麓の療養所に著いて、菜穂子が患者の一人として或病棟の二階の一室に収容されるのを見届けると、日の暮れる前に、圭介と母は急いで帰って行った。
菜穂子は、療養所にいる間絶えず何かを怖れるように背中を丸くしていた母とその母のいるところでは自分にろくろく口も利けないほど気の小さな夫とを送り出しながら、何かその母がわざわざ夫と一しょに自分に附添って来てくれた事を素直には受取れないように感じていた。
それほどまで自分の事を気づかって呉れると云うよりか、圭介をこんな病人の自分と二人きりにさせて置いて彼の心を自分から離れがたいものにさせてしまう事を何よりも怖れているがためのようだった。