往きのときよりももっとひどい嵐のため、窓とすれすれのところで苦しげに葉を揺すりながら身悶えしているような樹々の外には殆ど何も見えない客車の中で、圭介は生れてはじめての不眠のためにとりとめもなくなった思考力で、いよいよ孤独の相を帯び出した妻の事だの、その傍でまるで自分以外のものになったような気持で一夜を明かしたゆうべの自分自身の事だの、大森の家で一人でまんじりともしないで自分を待ち続けていたであろう母の事だのを考え通していた。
此の世に自分と息子とだけいればいいと思っているような排他的な母の許で、妻まで他処へ逐いやって、二人して大切そうに守って来た一家の平和なんぞというものは、いまだに彼の目先にちらついている、菜穂子がその絵姿の中心となった、不思議に重厚な感じのする生と死との絨毯の前にあっては、いかに薄手なものであるかを考えたりしていた。
彼のいま陥ち込んでいる異様な心的興奮が何かそんな考えを今までの彼の安逸さを根こそぎにする程にまで強力なものにさせたのだった。