そこでは又、現在の感覚と、現在思い出しつつある感覚とが絡まり合って、自分が二重に感ぜられていた。
いま一心に窓外を見ようとしながら何も見えないので空を見つめているだけの自分自身の眼つきが、きのう山へ著くなり或半開の扉のかげからふと目を合わせてしまった瀕死の患者の無気味な眼つきに感ぜられたり、或はいつも自分がそれから顔をそらせずにはいられない菜穂子の空けたような眼ざしに似て行くような気がしたり、或はその三つの眼ざしが変に交錯し合ったりした。
急に窓のそとが明るくなり出した事が、そう云う彼をも幾分ほっとさせた。