それにしても、あの時はもっと取つき悪い人のように見えたが、案外好い人らしいな。
何しろ、おれと来たら、何処か寂しそうなところのない人間は全然取つけないからなあ。
明は自分の下宿に帰ると、咳の発作を怖れてすぐには服を脱ぎ換えようともしないで、西を向いた窓に腰かけた儘、事によると菜穂子さんは何処かずっと此の西の方にある、遠い場所で、自分なんぞの思い設けないような不為合せな暮らし方でもしているのではないかと考えながら、生れて初めてそちらへ目をやるように、夕焼けした空や黄ばんだ木々の梢などを眺めていた。