菜穂子は、とうとう矢も楯もたまらなくなって、オウヴア・シュウズを穿いた儘、何度も他の患者や看護婦に見つかりそうになっては自分の病室に引き返したりしていたが、漸っと誰にも見られずに露台づたいに療養所の裏口から抜け出した。
雑木林を抜けて、裏街道を停車場の方へ足を向けた菜穂子は、前方から吹きつける雪のために、ときどき身を捩じ曲げて立ち止まらなければならなかった。
最初は、只そうやって頭から雪を浴びながら歩いて来て見たくて、裏道を抜ければ五丁ほどしかない停車場の前あたりまで行ってすぐ戻って来るつもりだった。