そして彼自身はと云えば、最近漸っと一と頃のように菜穂子のことで何かはげしく悔いるような事も無くなり、再びまた以前の母子差し向いの面倒のない生活に一種の不精から来る安らかさを感じている矢先きでもあったのだ。
――そう云った検討を心の中でしおえた圭介はもう少し全べてが何んとかなるまで、此の儘、菜穂子にも我慢していて貰わねばならぬと云う結論に達した。
菜穂子はもう何も考えずに、雪のふる窓外へ目をやって、暮がたの谷間の向うにさっきから見えたり消えたりしている、何んだかそれとすっかり同じものを子供の頃に見たような気のする、教会の尖った屋根をぼんやり眺め続けていた。