数年まえの冬、雪に埋もれた信濃の山小屋で、孤独な気もちで読んだものを、もう一遍、こんどは秋の大和路の、何処かあかるい空の下で、読んでみたくて携えてきた本だが、やっとそれを読むのにいい日が来たわけだ。
雪の中で、いまよりかずっと若かった僕は、この戯曲を手にしながら、そこに描かれている一つの主題――神的なるものの人間性のなかへの突然の訪れといったようなもの――を、何か一枚の中世風な受胎告知図を愛するように、素朴に愛していることができた。
いまも、この戯曲のそういう抒情的な美しさはすこしも減じていない。