或いは厩戸皇子のお住まいになられていたのがこのあたりで、そうしてその中心に夢殿があり、そこにおける真摯な御思索がそのあたりのすべてのものにまで知らず識らずのうちに深い感化を与え出していたようなことがあるかも知れない。
そうしてこのあたりの山や森などはもっとも早く未開状態から目覚めて、そこに無数に巣くっていた小さな神々を追い出し、それらの山や森を朝夕うちながめながら暮らす里人たちは次第に心がなごやかになり、生きていることのよろこびをも深く感ずるようになりはじめていた。
そうだ、僕はもうこれから二三年勉強した上でのことだが、日本に仏教が渡来してきて、その新らしい宗教に次第に追いやられながら、遠い田舎のほうへと流浪の旅をつづけ出す、古代の小さな神々の佗びしいうしろ姿を一つの物語にして描いてみたい。