――スポルティフになれない弱虫の僕は、ただこういう雪の中にじっとして、真白な山だの(――そう、山もそんなに大それたものでなくとも、丁度いま自分の前にあるような小品風なものでいい……)、真白な谷だの(――谷もあの谷で結構……)、雪をかぶったいくつかの木立のむれ(――あそこに立っている樺のような木などはなかなか好いではないか……)などをぼんやり眺めてさえいればよかった。
ただすこし慾をいえば、ほんの真似だけでもいい、――真白な空虚にちかい、このような雪のなかをこうして進んでいるうちに、ふいと馭者も馬も道に迷って、しばらく何処をどう通っているのだか分からなくなり、気がついてみると、同じところを一まわりしていたらしく、さっきと同じ場所に出ている――そんな純粋な時間がふいと持てたらどんなに好かろう、とそんな他愛のないことだけが願わしいような、淡々とした気もちでいた。
僕は目をつぶって、幌の穴から見ようとすれば見えたでもあろう、そのような雪の世界をただ想像裡に描きつづけながら、こういう自分の雪に対するそれほど烈しくもない、といって一時の気まぐれでもない、長いあいだの思慕のようなものが、いつ、どうして自分のなかに生じて来たのだろうかと考え出していると、突然、十年ほどまえ八つが岳の麓にあるサナトリウムで生を養っていた自分のすがたが鮮かによみ返ってきだした。