しかし、お照の方へは目をやろうとも、声をかけようともしない。
この頃向島から芸妓に出るようになったお照がまたときどきこのおばさん(――お照にとっても実の叔母なのだが、彼女が両親に死にわかれてから一時この家へ養女になっていたので、そのうちに折合が悪くなってこの家を飛び出してしまっている今でも、彼女はこの叔母のことを「母さん」と呼んでいるのである。
の家へ遊びにくるようになっているのは知ってもいたし、二三度顔を合わせたこともあるが、さて、こんな風に二人きりで差し向いになって見ると、相手がいかにも芸妓らしくなりすましているだけ、昔のように口を利くのが弘には何となく気まりが悪いのである。