私の部屋の窓からは、いまにも崩れそうな生墻を透かして、一棟の貧しげな長屋の裏側と、それに附属した一つの古い井戸とが眺められた。
しかし、井戸端と私の窓との間には、数本、石榴の木やなんかがあったり、コスモスなどが折から一ぱい花を咲かせながら茂るがままになっていたので、その井戸に水を汲みに来る女たちのむさくるしい姿はどうにか見ずにすんだが、彼女等が濁った声で喋舌り合っているのは絶えず聞えてきた。
その話し声は気になりだすと、どうもうるさくて仕方がなかったが、それでいて何を話しているのか聞いてやろうとすると、いくら耳を傾けても、はっきり聞きとれないほどの、それは遠さであった。