寺男が閼伽桶と線香とをもってきて、墓の苔を掃っている間、私たちは墓から数歩退いて、あらためて墓地全体をみやった。
四囲には錆びたトタン塀をめぐらしているきりで、一本も茂った樹木なんぞがなくて、いかにもあらわなような感じで、沢山の墓石がそこには、それぞれに半ば朽ちはてた卒塔婆を背負いながら、ぎっしりと入りまじっているばかり。
――そしてそれらの高低さまざまな墓石のむらがりの上には、四月末の正午ちかい空がひろがって、近所の製造場の物音が何やら遠くなったり近くなったりしながら絶え絶えに聞えてくるのである。