実は父の百カ日のすんだ折、寺でそのおばからちょっとお前の耳にだけ入れておきたいことがあるから、そのうちひとりのときに寄っておくれな、といわれていた。
まだ逗子に蟄居していた時分で、それに何かと病気がちの折だったので、私はおばにいわれていた事がときどき気になりながらも、なかなかひとりで東京に出て往けなかった。
が、そのうち何処からか、去年の暮れごろから目を患っていたおじさんが急に失明しかけているというような噂を耳にして、私はこれは早く往ってあげなければと思い、或日丁度自分の実家に用事があって往くことになっていた妻と連れだって東京に出て、私だけ手みやげを持って、震災後ずっと田端の坂の下の小家におじとおばと二人きりで佗住いをしている方へまわった。