私はそれまで、誰れにもはっきりそうと聞かせられていたわけではなかったが、いつからともなく自分勝手に、自分が上条のうちの一人息子だのに小さいときから堀の跡目をついでいるのは、何か私の生れたころの事情でそうされたのだろう位にしか考えていなかった。
十七八の頃になってからは、それまでひとりでに自分の耳にはいっていたいろんな事から推測して、自分の生れた頃、父が一時母と分かれて横浜かなんぞにいて他の女と同棲していたような小さなドラマがあって、そのとき隣りに住んでいた老夫婦がたいへん母に同情し、丁度自分たちのところに跡とりがなかったので私を生れるとすぐその跡とりにした、――その位の小さいドラマはそこにあったのにちがいないと段々考えるようになっていた。
そんな事のあったあとで、父は再び東京に戻ってきて、向島のはずれの、無花果の木のある家に母と幼い私とをむかえたのではあるまいか。