私の母は、それまで弟たちのところにいたおばあさんに来てもらって、土手下の、水戸さまの裏に小さなたばこやの店をひらいた。
いままで私たちのいた麹町の堀の家は、立派な門構えの、玄関先きに飛石などの打ってあるような屋敷だった。
それだものだから、そうやって土手下なんぞの小さな借家ずまいをするようになってからも、三つ四つの私は母やおばあさんに手をひかれて漸っとよちよちと歩きながら、そのへんなどに、ちょっと飛石でも打ってあるような、門構えの家でも見かけると、急に「あたいのうち……あたいのうち……」といい出して、その中へちょこちょこと駈けこんでいってしまって、みんなをよく困らせたそうだ。