私はそういう母の一家の消長のなかに、江戸の古い町家のあわれな末路の一つを見いだし、何か自分の生い立ちにも一抹の云いしれず暗い翳のかかっているのを感ずるが、しかしそれはそれだけのことである、――もしそういうものが私の心をすこしでも傷ましむるとすれば、それは私の母をなつかしむ情の一つのあらわれに過ぎないであろう。
土手下で小さな煙草店をやっていた私の母が、その店を廃めて、小梅の父のところに片づいたのは、私が四つか五つのときだったらしい。
私ははじめのうちはその新しい父のことを、「お父うちゃん」とお云いといくら云われても、いつも「ベルのおじちゃん」と呼んでいた。