私たちが、小さな集りのあるらしい、少人数の西洋人の姿が窓ごしにちらちら見える、教会の前を通りぬけて、その裏の、いつも人気のない橡の林の中へはいろうとした途端、私たちの行く手の、その林のなかの小径をば、一人の男が、帽子もかぶらずに、スケッチ・ブックらしいものを手にしながら、ぶらぶらしているのを私たちは認めた。
「いつかの画家さんよ……又、お会いしたわ」――彼女にそう注意をされるまでは、私はその男が、この頃何の理由もなく私を苦しめ出している、そのベレ帽の画家と同じ男であることには気づかなかった位であった。
それほど私はその画家については何んにも見覚えがなかったのだ。