――しかし独乙語はなにしろ高等学校でちょっと習ったきりなので、その詩のなかの太陽だとか薔薇だとか心臓だとか五月の空だとか、そんな簡単な名詞ぐらいは覚えていたけれど、肝腎な形容詞や動詞をすっかり胴忘れてしまっているので、私は自分の空想力でやっとそれを補いながら読んでみたのであるが、どうもそんな私に分かる語彙だけから見ると、その詩はおよそ私の現在の気持からはあまりに懸け離れていそうに思えたので私はその詩の意味をちっとも嚥み込めないうちに、その小さな本を私の枕もとに伏せてしまった。
それに私はいい具合にすこしうとうとしだしたものだから……
正午ごろ、T君が私を誘いに来てくれた。