そのなかにふと海豚叢書の「プルウスト」を見つけたので、ゆうべの読みづらかったハイネの詩集を思い出しながら、その薬屋のなかへ這入ってその小さな本を買った。
T君の話では、この店にはときどき随筆物で面白い本が来るのだそうだ。
それからまた、私たちはその窓から電話やタイプライタアの強請ったり吃ったりする音の聞えてくる商館の間を何となくぶらぶらしてみたり、今では魚屋や八百屋ばかりになった狭苦しい南京町を肩をすり合せるようにして通り抜けたりしたのち、今度はひっそりした殆ど人気のない東亜通りを、東亜ホテルの方へ爪先きあがりに上った。