その夜十二時近くに、私はすっかり雨に濡れ、力なげな咳さえしながら、午前中に出たきりのホテル・エソワイアンに帰って来てみると、その中はひっそりかんとして、誰もまだ帰ってきていないのか、それとももうみんな寝てしまったのか、分らないくらいだった。
薄ぐらい廊下にただ一匹、からす猫がうろうろしていた。
私はふとヴェルネ・クラブでちらっと見た美しい婦人の抱いていた仔猫のことを思い出し(どうしてだか、それがずっと数日前のような気もしたが)、そのきたならしい猫をそっと抱き上げて、咽喉のところを撫でてやったら、すぐにそいつが咽喉をごろごろ鳴らし出したので、私はなんだか反ってさびしい気がした。