――彼は愛人のジルベルトなしに何時までも生きなければならないのではないかという考えや、彼の両親を永久に失うのではないかという考えや、彼自身の死の考えに恐怖しだす。
しかしそういうような愛人や両親や自分自身から離れている不安は、その不安に慣れるにしたがって、彼自身もだんだん平気になって行くのではないかと考えはじめた刹那、それは一層大きな恐怖に変わる。
何故なら、習慣の錬金術がこうして苦しんでいるものを完全な無関心者(その者にはそんな苦しみの原因が全く莫迦げたものに思われるのだ)に変えてしまい、そうしてその時こそは彼の愛情の対象が消えるのみならず、その愛情そのものさえ消えてしまうかも知れないからだ……